クリニックを初診でかかられる方のなかに1割ほど健康診断で異常を指摘されたという患者さんが来院されます。その異常の中で多いのが脂質代謝異常・高血圧・高血糖といった生活習慣病に関連した項目です。
脂質代謝異常や高血糖は、採血を行わないと分かりません。しかし、高血圧は血圧計さえあれば自分でも調べられ痛くない検査です。今回は皆さんに、血圧に関連した基礎知識とその下げ方を解説します。
脳卒中・心臓病で亡くなった家族がいるアナタは高血圧かもしれない
そもそも、血圧が高いとどうしていけないのか解説します。血圧は、水道にホースが繋がっている状態をイメージしていただくとわかりやすいです。ホースから出る水の量が血圧です。水の量を増やすためには、蛇口をたくさん増やすか、ホースの先をぎゅっと握るかのどちらかです。
水道の蛇口は血液の量を表し、ホースは体中を駆け巡る血管を表します。血液の量を増やす代表的なものは塩分です。多量の塩分を摂取すると、それを薄めるために血液の量を増やして対応し、結果血圧が高くなるのです。
ホースがつままれる状況、つまり血管が細くなる状況として代表的なものは、動脈硬化があげられます。動脈硬化は、高い圧力で血管に負担を掛けたり、脂質を多量に摂取していると生じます。また、加齢に伴い誰でも多少の動脈硬化は進行します。
動脈硬化が引き起こす恐ろしい病
動脈硬化が進行すると血管の中にプラークと呼ばれる脂の塊が積もります。その結果、血液の通り道が狭くります。血液の流れが悪くなると、血圧が上昇します。脳の血管が徐々に狭くなり、血流が途絶える病気をラクナ性脳梗塞といいます。
自覚症状がなく、検査により発見されることもあるため、「隠れ脳梗塞」とも呼ばれます。重症化すると、手足の麻痺やものが飲み込みづらくなる嚥下障害などの症状を引き起こします。
また、心臓にある血管の「冠動脈」でも、当然動脈硬化は進行します。心臓にある血管は3本の冠動脈に枝分かれしており、1本でも詰まるとその先にある心筋は壊死してしまいます。これを心筋梗塞といいます。完全に詰まらずに動作時に詰まり、胸の痛みがでることを狭心症といいます。血管が痙攣し胸の痛みが出ることもあります。
このように、血圧が高いまま生活していると動脈硬化を進行させ、脳梗塞や心筋梗塞の原因となります。厚生労働省の調べでは、近年、微増ではありますが39歳以下の心筋梗塞・狭心症による死亡が増えており、若年者といえど注意が必要です。
厚生労働省の調べ
脳梗塞だけじゃない、高血圧で引き起こされる恐ろしい病
高い圧が血管にかかりつづけると、その部分の血管は薄くなり風船上に膨らみます。これを瘤(りゅう)といいます。脳の動脈に出来たものを脳動脈瘤、心臓から出る太い動脈に出来たものを大動脈瘤といいます。腹部にある太い血管にあるものは大動脈瘤といいます。これらが破裂したら命を救う方が難しいくらい、重症化します。
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血圧を下げるためにしなければならないこと
高血圧を治療しないと、脳卒中や心臓病の原因になると、健康診断やかかりつけ医に言われて「あーわかってるよ」とうんざいしているかたも多いはず。自覚症状はないし、そもそも健康診断で言われるだけで、他では言われない。どうやって下げたら良いのか、見当が付かない。そんな方も多いはず。
血圧を下げる薬をくれといったら、断られた
私が診察室で医師の介助をしているときに、よく見かける光景があります。患者さんが健康診断の結果を提示し、血圧が高いと言われましたと相談します。そして、血圧の薬を飲みたい、将来脳卒中や心臓病になりたくないという意思表示をします。
しかし、多くの医師は降圧薬を処方しません。先に家庭血圧を測定し2週間後を目安に再診するように指示するのです。
血圧は1日の中で変動するモノ
集中治療室で勤務しているとよく分かるのですが、人間の血圧は一定ではありません。朝と夜で変動しますし、1回目と2回目の血圧の値も違います。少し嫌なことがあったときや緊張しているときなども高くなったりします。
寝ている最中やリラックスしている時は逆に低くなります。ストレスが少ない生活は身体に良いと言われるゆえんの1つです。しかし、ストレス社会と言われる昨今、ストレスをなくすことなんて不可能に近いですよね。
白衣高血圧症という病
実は診察室や健診の時「だけ」血圧が高くなってしまう人がいます。健診の時だけ高血圧になっていても、普段の生活の中で血圧が高くなければ治療の必要はありません。これを白衣高血圧症といます。人間が緊張するのは、なにも女の子に告白するときだけではないのです。私たち白衣を着ている人間や健診の会場、病院の中に足を踏み入れるだけで血圧が高くなってしまうのです。
普段の血圧を知る方法
日常生活の中で血圧は、変動します。血圧の管理で最も重要なのは、その平均値を知ることです。なぜなら、血管にどれだけ負担が掛かっているのかがわかるからです。平均値を知るためには、起床時と就寝前の血圧を測定する必要があります。その日がたまたま高かった可能性もあるため毎日測定し1週間を目安に平均値を出します。これがあなたの血圧です。
もし、あなたの1週間の平均血圧が治療を必要としない血圧だった場合、健康診断で高血圧と指摘されたとしても、治療は必要ないということです。ここで、もし血圧を下げる薬を希望し、医師も患者さんの希望だからという理由で降圧薬が処方されていたら、血圧が下がりすぎてしまう可能性があるのです。
したがって、血圧を下げるためにしなければならないのは、毎日の血圧測定ということになります。
意外と間違えている血圧測定の方法
ジムや病院などに血圧計がおいてありますが、アナタはどのタイミングで血圧測定を行いますか。運動前ですか、運動後ですか。実は、運動後しばらくすると血圧は下がる傾向にあります。運動中から運動直後は体内に酸素を運ぶため血圧は高くなるのですが、その後は徐々に下がることが一般的です。
したがって、運動後しばらくして血圧測定をしていると「私の血圧は低いのだ」と勘違いを引きおこします。また、病院で血圧測定を実施すると白衣高血圧症により血圧は高く表示されやすくなるため、「私は高血圧である」という勘違いを引き起こします。
就寝前に血圧を測定してくださいとお願いした結果、飲酒後に血圧測定を実施する患者さんが良くいます。しかし、飲酒後は血圧が下がるので夜の平均血圧は低下傾向になります。そして、起床時の血圧は上昇傾向になるため、患者さんに飲酒の有無を尋ねると大抵「している」と答えます。
このように、血圧測定の条件をしっていないと医師に正しい情報提供を行えず、適切な治療がなされないため、不利益を被る必要があります。
正しい血圧測定の方法
場所:静かなところで行いましょう。
騒音はストレスとなり、血圧を変動させる要因になります。また、寒さや暑さも変動させる要因になるため、室温が20度前後のほうが好ましいと言われています。
状況:運動直後などは避け、安静にした状態で落ち着いたところで測定します。
食後や喫煙直後、飲酒後などは血圧を変動させるため避けるようにしてください。
姿勢:腕に巻く血圧計は心臓の高さになるよう、腕を机の上に置くよう工夫します。
毎回条件が変わらないように、その高さがなるべく一定になるように測定します。
時間:毎回、同じ時間に測定することが望ましいです。
朝の起床時、夜の就寝時が一般的です。起床時は食前でトイレを済ませてリラックスした後に。夕食で飲酒をする場合には時間を早めて、飲酒前に血圧測定を行う方が良いでしょう。
現役看護師が患者さんの見本となるべく1週間血圧を測定してみた
心臓病や脳梗塞の患者さん、そして高血圧でかかりつけの患者さんに対して、毎日血圧を測定しないといけませんよと説明してきました。今でもしています。しかし、患者さんから「毎日測定する辛さなんかお前にはわかるまい」なんて叱られることもあります。
これまで友人たちから誘われるたびに続かなかったマラソン、ブログの執筆・・・・・・実は三日坊主の私です。そんな私も、血圧測定を1週間測定できることをお見せしようと思います。
1週間血圧測定プログラムの内容
時間:起床時と就寝前
場所:自宅
状態:リラックスし、飲酒を行っていない状態。
記録:iPhoneのヘルスケアを使用(後ほど説明します。)
1日の測定のタイミングは、朝と夜の2回。これをiPhoneのヘルスケアというアプリを使用して記録していきます。このアプリについては後ほど説明しますが、自動で平均値を算出してくれることや、新たにノートや筆記具などを購入しなくてもすぐにはじめられるところが利点になります。
これは看護師としての愚痴になりますが、血圧の評価は1回の血圧では評価せず1週間などの一定期間の平均値を用いて評価します。したがって、患者さんが持参した血圧の記録表をもとに、平均値を算出することが多々あります。高齢者が多く、平均値を出してくれとお願いすることもできないのでつらいところ。
ぜひ、アプリなどを使用し、平均値を持参してくれると助かります。
使用している血圧計はこちら
使用している血圧計はNISSEI DSK-1011という機種になります。値段は5000円ほどで購入でき、腕に巻いて測定する血圧計のため血圧の値も信用できます。
実は家庭用血圧には2種類あります。1つは、私の持っている血圧計のように腕に巻くタイプのもの。そして、もう1つが手首に巻くようなものです。前者は腕に巻くのが大変という弱点がありますが、後者は巻くのが容易な分、血圧の値が高く算出されます。したがって、私は腕に巻くタイプの血圧計をおすすめします。
毎日の血圧測定をノートに記録するのは時代遅れ
毎日の血圧を区邸を記録することは、毎日の測定はもちろんですが、記録することも負担となります。わざわざ、ノートを用意し記入していき、病院に行くたびに持参しなければならない。平均値を出せと言われる場合もある。測定することが大切なのに、他のところで嫌になるのはもったいないですよね。
そこで私は、iPhoneのヘルスケアというアプリをおすすめします。これは、iPhoneをおもちのかたなら最初から入っているアプリで、入力も用意です。表示期間を変更することにより平均値も自動的に計算してくれます。毎日の記録もわかるため、その変動値もわかります。なにより、病院スタッフも計算する必要がないため、負担が少ないです。筆記用具も必要としません。
ヘルスケアの使い方
まずヘルスケアのアプリアイコンをタップします。
次に、ヘルスケアデータタブをタップし、バイタルを選択します。
血圧、呼吸数、心拍数、体温と表示されるので、血圧を選択します。
血圧測定が終了後、データポイントを追加を選択します。
最高血圧と最低血圧をそれぞれ入力し、追加をタップし終了となります。
それぞれの期間を選択することで、毎日の血圧の変動や1週間の血圧などを表示させることが出来ます。病院に受診時は、こちらの画面を医師に提示しましょう。
看護師が実際に1週間測定してみた
測定初日、私はこの原稿を書き始めてました。ある程度書き終えると、満足感に浸りそのまま就寝してしまいました。そうです。早速1日忘れてしまったのです。今度から、少しくらい忘れた患者さんを責めるのは辞めようと思います。
時間帯は深夜やお昼もありますが、夜勤後の場合深夜や午前中に仕事を終えてから就寝するため、このような時間になってしまうのです。夜勤後は血圧が高いと思っていたのですが、それでも収縮期血圧(いわゆる上の血圧)は110程度でした。低いときは90代ですが、特に自覚症状はありません。
ここで知っていただきたいのは、このように血圧は1週間でも変動しやすいため、一喜一憂する必要がないと言うことです。
高血圧は高齢者の病気ではなく、生活習慣病という名前がついているくらい、生活に関連した病気です。若い人も血圧が高い人は当然います。ぜひ、血圧計をお買い求めて、血圧測定習慣を身につけましょう。それが、血圧を下げる第一歩になります。